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「ゆる体操」革命 前編

こんにちは。新2回生漕手(事実上)の安野恒喜です。

高校ボート競技において、花形種目である舵手付きクォドルプルで国体6連覇を成し遂げたチームが存在することをご存知でしょうか? 岡山県に存在する関西高校です。関西は「かんさい」でなく「かんぜい」と読みます。森川幸夫先生が監督として率いられています。森川先生はオリンピックに出場され、国内でも5本の指に入る選手だったのでないかと想像する人もいるかもしれません。しかし、驚くべきことに、学生時代は他のスポーツをされていて、ボート部に在籍していた経験はありません。強さの秘密をお聞きするために、関西高校にうかがいました。
「知らなかったからこそ、いろんなものが入ってくるのです」
と森川先生はおっしゃいました。森川先生は顔をくしゃくしゃにしての笑顔が印象的で、関西高校のボート部員のなかには、先生に喜んでいただくために日々練習をがんばっている人もいるのでないかと思いました。森川先生は最初ボート部の監督に就任されたとき、モーターボートを運転するスポーツでないかと思われたそうです。しかし、ボート部の生徒に勝利を経験してもらい、良い青春を味わってほしいとの思いから、練習法や指導法を、経験者ならではの「常識」にとらわれず、必死に研究されました。世界大会で元銅メダリストのCam Harvey選手をカナダから招かれたこともあったそうです。数々の練習法の中で、森川先生が最も評価されているのが、ゆる体操です。これは、体をゆらゆら揺するような動きをする体操で(種目によっては揺すらないものもあります)、全然苦しくないものです。強豪校の監督の先生であれば、地獄のように厳しいトレーニングを重視されるのでないかと思っていましたが、意外にも森川先生の考え方には「楽して勝とう」というものもあります。関西高校ボート部では、ゆる体操を行うために専属のトレーナーを招き、指導を受けています。小野勝之先生です。小野先生は岡山市を中心に、ゆる体操教室を開かれていて、スポーツ選手に限らず、高齢者も含めさまざまな人に、ゆる体操を指導されています。関西高校ボート部では毎週月曜日に小野先生の指導のもとで、ゆる体操を行っています。その日の部活は1時間ほどで終わり、ゆる体操以外のトレーニングは行いません。

 
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森川幸夫先生(左)と小野勝之先生(右)  森川先生のノートには、「TEAMモリカワ」と書かれています

 

○なぜ私が、ゆる体操に注目したのか

私がなぜ岡山県の関西高校にうかがったのか、このブログを読んでいる皆様に説明する必要があります。私は特殊な状況に置かれた漕手で、大学院の研究とボート部を同時並行で行っています。11月上旬の秋期選手権までは全ての練習に参加していましたが、研究の進捗が大幅に遅れたこともあり、秋季選手権以降は合宿所に毎日来るのをやめ、京大キャンパス内のローイングエルゴメーター(通称エルゴ)を用いてトレーニングを行っていました。しかし、それすらできない日もあることから、短時間・低負荷で、かつ漕力の向上につながるトレーニング法を模索していました。これは、一般的なボート選手からすれば、非常識な取り組みに見えると自覚しています。しかし、大学の状況は数十年前と変化しつつあり、日本のどの大学においても、いずれ部活動の練習時間を削らなければならないようになるのでないかと予想しています。例えば、2015年に文部科学省が、大学の卒業要件を厳しくするとの指針を出しました、それ以降、京都大学では単位を取るのが難しくなり、学生はレポート課題に追われるようになりました。「単位は空から勝手に降ってくる」時代は終わりました。さらに、国立大学の授業料は昭和50年に3万6000円だったのが、平成元年には10倍の33万9600円になっています。平成17年以降は53万5800円で据え置かれているものの、今後授業料が上がらない保証はありません。学費が上がるということは、部活とアルバイトを両立しなければならない人が増えることにつながります。私の試みは愚かなものに見えるかもしれませんが、練習時間を取りにくい状況で、ゆる体操を導入し、ボートの実力が本当に伸びるのか確かめることに意義があると考えています。例えば、エルゴタイムが伸びた、エルゴタイムの割に乗艇のタイムが異常に速い、フォームが別人のように改善した、という変化があれば、注目を集めるだろうと思います。

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