新歓の季節も終わり、いよいよ朝日レガッタ!という時期になってきました。今年は多くの新入生がボート部に入部してくれてとてもうれしいです。これから一緒に頑張りましょう。
さて、約1か月の新歓のなかで何回も新入生をボートを体験してもらっています。そこで私たちCOXが苦労するのが、ボートのことを何も知らない新入生にどうやって指示を出すのか、もっと簡単に言えば船の上でどのようにコミュニケートするのか、ということです。考えてみれば、ボート部員が船の上で話していることは術語のカタマリで部外者にはわからないでしょう。ストサイ、バウサイ、リギング、、、さらには挨拶の言葉「ありがとう」にもボート用語として特別な意味が付与されています。
そんなボート用語の数々、特に日本では統一されていない部分も多く、水域や団体によってバラつきがあったりします。私は高校(埼玉県)でもボートをやっていたのですが、京大に来て戸惑うことも多かったことを覚えています。例を挙げると、「両舷まわし」。各サイド交互にローとバックローを繰り返す動作のことですが、この名詞は戸田にはありませんでした。細かいところで言うと、ブレードを1枚出し入れする動作のことを戸田では「チャポり(チャボり)」と言っていたのですが、京大では「チャポ(チャボ)」と言います。
これらの例のような相違は、戸惑うことはあっても違いはすぐ分かりますし、そこで意思を確認してしまえばそれでいいのですが、技術的な術語となるとそうはいきません。コミュニケートできればいいのではなく、その術語を駆使して議論を発展させなければいけないのですから。語彙を持つということはすなわち概念を備えるということですから、rowingを考える視点の多角性は語彙の豊潤さに比例するとも言えます。しかしながら語彙の豊潤さはあっても、その定義が曖昧であったり、同じ言葉でも団体によって微妙に指すものが違ったり、違う言葉で同じものを指していたり、というのが現状です。MTGにおいて侃侃諤諤の議論をした結論が、悲しいことに語用論の相違だということもあります。ボート関係者誰もが言うことでしょうが、もう少しでも概念や語用が整理されていればもっと建設的な議論ができるのに、といつも思います。
ここで一つ例を挙げましょう。京大ボート部では「水中(すいちゅう)」という言葉をわりとよく使います。スパートで全力を出そうというときに「水中MAXいこう」とコマンドをかけたりします。この「水中」とは何を指すのか。水中と言うからにはブレードが水に入っているとき、すなわちエントリーからフィニッシュまででしょう。ここで私は疑問に思うのです。MAXにすべきなのは本当に水中なのか、何かをとり逃している気がする、もっと適切な語彙があるはずだ、と。私の思う「水中」の良くないところは、その区間すべてプレッシャーをかけるべきではないのに、後述するドライブと同義のように使われている点です。それでは、水中に近い語彙を列挙してみましょう。足けり、ドライブ、ストローク、足おり(これも京大用語だと思う)etc. このなかで私が注目したいのが前述した「ドライブ」です。「ドライブ」とは何か。オックスフォード新英英辞典によれば、
propel or carry along by force in a specified direction
ということです。私は今日ふとこれを調べたのですが、rowingのストロークを表す言葉にふさわしすぎると感動しましたね。訳せば、
ある特定の方向に沿って力をかけて[目的語]を推進させる、運ぶ
となります。これを見ればMAXにすべきものはすぐに見つかります。当然、ドライブにおけるforceですね。しかしながらここに留保が付きます。in a specified directionです。ここが感動ポイントです。私も知らなかったのですが、ドライブという動詞は方向性を含意しているのです。ボートにおいてストロークの方向が重要なのは言うまでもありません。ちなみに、propel: push something forwordsです。納得です。
ということで、私は本日より「ドライブ」推しでいきたいと思います。船の上で、
「driveにおけるforceをMAXにしよう。ただしin a specified directionに。」
といっていたら私です。朝日レガッタで探してみてください。
という冗談はどうでもいいですが、みなさんももっと自分の使っている語彙に自覚的になってより頭を使ってボートを漕げるとよいですね。